イノベーション創出とデザイン思考

ビジネスモデルにイノベーションを起こす

Topic 69 新事業の3つのリスク、デザイン思考のメソッドで価値提案のことばかりを考えていませんでしょうか?

アッシュ・マウリャ氏が著した「Running Lean 実践リーンスタートアップ」では、スタートアップの時期に3つのリスクがあると説いています。

 

・製品リスク
・顧客リスク
・市場リスク

 

デザイン思考では、顧客のことを学習することが重要論点となっています。
「製品リスク」とは、お客さんやお客さんになるかも知れない人のどんなことを解決するかです。
その「製品リスク」に気持ちが傾いてしまいがちではないでしょうか。
とにかく顧客ニーズがどんなところにあるのか分からないので、そのようになってしまうのは、ある意味では仕方がないことかも知れません。
デザイン思考とは、そもそも人間中心設計が基本的なところにあります。だからこそ、顧客の立場となって、顧客ニーズを発見することが最優先となるのです。

 

ところが、ビジネスとなると「顧客リスク」と「市場リスク」が大きな課題となります。
デザイン思考では、どうやって顧客の課題を見つけて、どうやって顧客の課題を解決するかの方法論はよく語られています。
一方で、「顧客リスク」と「市場リスク」についてはどうでしょうか?

 

顧客リスクとは、顧客セグメントについてです。
ターゲットにする顧客セグメントに対してアプローチするための具体的な手段を構築可能かどうかです。
いわゆるチャネルのことです。
チャネルの役割は、価値を知ってもらう手段、価値を届ける手段、価値を届けた後のフォローアップです。
顧客へのアプローチの手段を構築できないことは極めて深刻なことです。
もとより、ターゲットにしている顧客セグメントが適切かどうかの問題もあります。

 

市場リスクとは、ビジネスとして実現して継続が可能かどうかです。
どうやって収益を確保して、そのためにどれだけのコストが必要かということです。
顧客が支払い可能な金額はいかほどでしょうか?


顧客のことを学習する行為には、「顧客リスク」と「市場リスク」についても必要と言うことなのです。


市場リスクについては、さらに視野を広くする必要があります。
収益やコストに対するリスクばかりではなく、競合他社や代替え品などによるリスクもあるからです。
ここでは、業界分析では定番となっている5フォース分析を活用することが考えられます。

 

・新規参入者の脅威
 高い参入障壁を構築し、模倣困難性が高ければ強いものになるでしょう。
・既存企業同士の競争
 同じベネフィットを提供する競合ブランドがあろうとも、他社より優れていることを維持可能であれば強いものになるでしょう。
・代替品の脅威
 同じ商品であれば、模倣困難性が高くとも、それに代わる商品があれば、その分弱まるでしょう。 
・買い手の交渉力
 UVP(Unique Value Proposition・独自の価値提案)で顧客の問題を解決できるなら強いものになるでしょう。
・供給業者の交渉力
 特定の供給業者や特定の希少資源に頼るしかないとなると常に苦しい立場となるでしょう。  


「新規参入者の脅威」「既存企業同士の競争」「代替品の脅威」については、顧客にとってのスイッチングコストをどれだけ高くするかでもあります。
スイッチングコストが高ければ高いほど、顧客が他社に逃げることを防げるでしょう。

それには、2つのポイントがあります。

 

・自社に対して熱狂的なファンを醸成
・自社に対する依存度を高める

 

スイッチングコストとは、金銭的なコストより精神的なコストの意味合いの方が大きいです。
スイッチングコストとは、他の商品に乗り換えるときの精神的な負担なのです。
AKB48やiPhoneはスイッチングコストを高くすることに成功した好例と言えます。

 

他社が自社よりも優れたベネフィットの提供を可能としても、だからと言って他社の商品に乗り換えるかどうかは別問題なのです。
人間の行動は必ずしも合理的でもなければ、論理的でもないのです。
そこには、感情や直感が伴います。

 

「代替品の脅威」については、やっかいな側面があります。
身近な例では、メールやSNSです。これらは、コミュニケーションにおいて重要な役目を担うだけの存在感となっています。
メールやSNSがなくては、ビジネスにおいても困ることが大きいと言っても過言ではないです。
その分、電話に対しての必要性が低くなっています。
昨今では、AIの登場が様々な業界で脅威となりつつある様相です。
いったい何が、いつの時期に代替品として、とって代わるのか予測がつかないのです。


「買い手の交渉力」「供給業者の交渉力」はBtoBビジネスでは深刻な課題となり得ます。
特定の買い手や供給業者に依存度が高いと、結局は取引先企業の言いなりになるしかなく、ビジネスの継続において立場を弱くします。

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